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[PYP]「IB校におけるインクルーシブ教育の事例〜Universal Design for Learningを取り入れて〜」

近年、日本のみならず世界中で「多様性(Diversity)」というキーワードが聞かれるようになりました。

人々のライフスタイル、価値観は多様化しており、社会ではそれを受容する流れができつつあります。

 

学校現場でも同じように、様々なバックグラウンドや特性を持った子どもが共に学びます。

そんな教室の中で、どんな子でも安心して学べる環境を作ることは、私たち教員にとって重大な使命です。

 

国際バカロレア機構(2016)は「IBワールドスクールにおいて、インクルーシブ教育を確実に実施することを保証します。」と述べており、障害のあるなしや文化・言語の違いに関わらず、全ての学習者が利用できる学習環境を作ることに焦点を置いています。

 

そこで、本校では学びのユニバーサルデザイン(Universal Design for Learning,以下UDL)の理論を取り入れた実践を行っています。

 

UDLは米国CASTが開発したフレームワークで、UDLガイドライン(2011)では次のように定義されています。

 

“学習環境の中に含まれる学びのエキスパート(expert learner)を育てる上での根本的な障壁、つまり、融通が利かず「全員一律で対応させようとさせる(one-size-fits-all)」ようなカリキュラムに対処するための枠組みです。”

 

UDLでは、子どもが上手く学習に取り組めない時、子どもに障害があるのではなく、カリキュラムに障害があると考えます。

一律の方法を押し付けるのではなく、様々なオプションを用意することで、全ての子どもが主体的に、取り組みやすい方法で学習を舵取りしていきます。



それでは、本校での取り組みをUDLの原則に従って紹介していきます。

 

原則Ⅰ:提示のための多様な方法の提供(学びの”what”)

情報の処理の仕方は子どもによって異なります。”聞く”ことが得意な子もいれば、”見る”ことで判断する子もいます。本校ではICT環境を整え、子どもたちが様々な感覚刺激を用いて学べるようにしています。

 

低学年では、ノートの書き方を説明するために、プロジェクターに子どものノートと同じ升目のものを映し出します。また、計算方法についても数字だけでなく、図も用いることで、より多くの児童が理解できるようにします。

(例 2年生 算数 足し算の筆算)

授業内にやるべきタスクについては、聴覚情報だけでは聞き逃してしまうこともあるため、画面にも映し出します。それを見ながら児童は自分で学習を進めていきます。

(例 5年生Art)

原則Ⅱ:行動と表出のための多様な方法の提供(学びの”how”)

学習の方法として、図を描いて理解を深める子どももいれば、文章でまとめたほうがわかりやすい児童もいます。授業では様々な方法を提示し、子ども自身がやりやすい方法を選択し、アウトプットをしていきます。

(例:2年生 算数)

また、取り組み方についてもオプションを用意します。子どもによっては何かを考える時、「一人でじっくり考えたい児童」「ペアで考えたい児童」「グループで話し合って考えたい児童」様々います。机の配置を工夫し、自分のやりたい方法でできる場所を選択します。

時には学習の途中で何をしていいかわからず、困ってしまうこともあります。そのため、進捗をセルフモニタリングし、学習の方法や内容を改善していく必要があります。本校では学習の到達度を示すルーブリックを活用しています。目につくところに掲示することで、「自分が今どの段階にいるのか」「これから何をすれば良いか」を考えていきます。

(例 2年生探究)

原則Ⅲ:取り組みのための多様な方法の提供(学びの”why”)

この原則では学習者の感情にフォーカスします。

学習に集中して取り組むためには、子どもが持ち得る不安や、気が散る材料を減らしていく必要があります。

次のような方法で不安材料を減らしていきます。

 

・スケジュールの提示

「何をやるかわからない」は子どもにとって大きなストレスになります。

イマココ矢印を使い、今やっていること、次の授業で必要なものを自分で判断できるようにします。

(時間割)

・毎日のルーティン(メモ書き)

2年生の国語では、今の自分の気持ちややりたいこと、不安などをアウトプットする時間をとり、心を落ち着けてから授業に入ります。

 

クラスによってはフラッシュ計算をしたり、知識を広げていく時間をとったりして、自然と学習に向かえる環境を作っています。

また、努力やがんばりを継続させるオプションも重要です。そのために、「目標が何なのか」を常に把握しておく必要があります。教室内に多様な方法で掲示することで、意識したい学習者像や目標を思い出すことができるようにします。

UDLの大きな目的は、「学習のエキスパートを育てる」ことです。「どの学習方法が自分に合っているのか?」「自分はどのくらい到達できているのか?」を子ども自身がメタ認知し、主体的に学べる学習者を目指します。

 

 私自身意識的に授業を変えようとしていますが、集団指導をする際、どうしても「普通のレベル」を想定して授業を組み立ててしまいます。しかし、子どもにはそれぞれにグラデーションがあり、「普通の子ども」は存在しないはずなのです。学びの主導権を学習者側に移していければ、子ども達はより豊かに学べるはずです。今後も全ての子どもたちが学習で力を発揮できるように、実践を深めていきたいと思います。

 

(2学年担当 海老澤)

参考・引用文献

・CAST (2011).Universal Design for Learning Guidelines version 2.2(日本語版翻訳:金子晴恵バーンズ亀山静子)

・International Baccalaureate Organization(2016).Universal design for learning (UDL) and inclusive practices in IB World Schools 

・Tracey E.Hall, Anne Meyer, David H. Rose(2012).Universal Design for Learning in the Classroom: Practical Applications (What Works for Special-Needs Learners) ,The Guilford Press